井戸川・雁屋を批判する為に政府・電力会社の糞っぷりを擁護するのは醜悪としか言えない

美味しんぼの鼻血問題が話題になっているが、その漫画の中で発言が出てくる井戸川氏を批判する為*1に、政府や東電をはじめとする電力会社による地震の評価をゆがめた行いを擁護する人がいるようだ。

山本弘のSF秘密基地BLOG:続・鼻血効果

もう一人、『美味しんぼ』に登場する前双葉町町長の井戸川克隆氏について。どんな人なのかと検索してみたら、こんなことを言ってるのを見つけた。 2013年7月16日の街頭演説だそうだ。(3分45秒あたりから)

https://www.youtube.com/watch?v=kNGH17igez8

>あのー、今日はもうひとつ、とんでもないことを喋らせていただきます。2011年津波のあった年の3月3日、3月3日に、地震津波のあることを日本政府は知ってました。知ってたんですよ。8日前に、地震津波の8日前に知ってました。しかし、それを止めたのは、政府と東京電力東北電力と日本原電が発表を止めてしまったんです。こんなことって許されますか、みなさん。

 何と、政府は3月11日に地震が来ることを知っていたというのだ!
 はて、その話のソースはどこだ……と思って検索してみたら、こんなのが見つかった。2012年2月25日の記事である。

電力会社求め巨大津波警戒を修正 地震調査報告書で文科省
http://www.47news.jp/CN/201202/CN2012022501001655.html

> 東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。
> 報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。

 どう見ても、政府が3月11日に地震が来ることを知っていたという内容ではない。いつ来るか分からない地震による津波の危険を指摘する報告書を作成中、電力会社から表現を変えるよう求められたために、修正したうえで発表しようとしていたら、震災が起きたもので発表できなくなった……ということだ。
 これが井戸川氏の頭の中では、地震津波のあることを日本政府は知ってました」「政府と東京電力東北電力と日本原電が発表を止めてしまった」ということになるらしい。

 僕はほんの数分、検索しただけで、こういうことが分かったというに、なぜ『スピリッツ』編集部は気づかなかったのだろうか? 不思議だ。

ほんの数分では私には無理だったが、ちょっと小一時間ほど調べればもっと詳細な報道がでてくる。
下記に引用した記事*2を見て貰えれば分かるように、「いつ来るかわからない地震」や電力会社より求められたのが「表現を変えるよう求められたため」なんてかわいいものではない。東北地方の巨大津波について「いつ起きてもおかしくはない」という表現で書かれていたものが、差し止められたうえ、最終的に貞観地震について周期性は無いにまで書き換えられて発表されるところだった。
電力会社の介在によって原発のために、地震についてのリスク評価が歪ませられる事は、山本氏にとっては井戸川氏、雁屋氏を批判することよりどうでもいいことのようだ。
しかし、この政府・電力会社の屑っぷりをどうして擁護できようか、そのことを批判している井戸川氏をどうしてあげつらう事ができようか、醜悪としか言えない。

巨大津波警戒の報告書修正 電力会社の注文受け文科省*3

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201202260070.html

東日本大震災の8日前、宮城―福島沖での巨大津波の危険を指摘する報告書を作成中だった政府の地震調査委員会事務局(文部科学省)が、東京電力など原発を持つ3社と非公式会合を開催、電力会社が巨大津波地震への警戒を促す表現を変えるよう求め、事務局が「工夫する」と修正を受け入れていたことが、25日までの情報公開請求などで分かった。

報告書の修正案は昨年3月11日の震災の影響で公表されていない。調査委の委員を務める研究者らも知らされておらず「信じられない」などの声が出ている。電力会社との「擦り合わせ」とも取られかねず、文科省の姿勢が問われそうだ。

文科省は「誤解を招かないよう表現を修正した」などと説明。東電は「文科省から情報交換したいとの要請があった。(修正を求めたのは)正確に記載してほしいとの趣旨だった」としている。

作成中だった報告書は、宮城県などを襲った貞観地震津波(869年)の新知見を反映させた地震の「長期評価」。貞観地震と同規模の地震が繰り返し起きる可能性があると指摘されていた。

開示された資料や取材によると、会合は「情報交換会」と呼ばれ、昨年3月3日午前10時から正午まで省内の会議室で開催。青森、宮城、福島、茨城各県に原発を持つ東電、東北電力日本原子力発電から計9人が出席した。

巨大津波への警戒を促す記述について、東電などは「貞観地震が繰り返していると誤解されないようにしてほしい」と要求。文科省は「内容は変えないが、誤解を生じにくいよう文章を工夫したい」と応じ、数日後には「繰り返し発生しているかは適切なデータが十分でないため、さらなる調査研究が必要」などとする修正案を作成した。

電力会社側はさらに活断層評価に関する意見交換会も要求。昨年3月末に会合が予定されたが、結局開かれなかった。

政府の東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会によると、東電は昨年3月7日、経済産業省原子力安全・保安院に「貞観地震の記述を変更するよう文科省に求めた」と報告している。

「いつ起きても」を削除 巨大津波の記述、文科省*4
中国新聞 2012年2月28日
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201202280113.html

 東日本大震災直前の昨年2月、政府の地震調査委員会(文部科学省)が東北地方の巨大津波について、報告書に「いつ起きてもおかしくはない」と警戒する記述を盛り込むことを検討しながら、委員の議論を受けて削除していたことが、28日までの文部科学省への情報公開請求などで分かった。「切迫度のより高い東海地震と同じ表現を使うのは不適切」との理由だった。
 報告書案は震災8日前、文科省東京電力など3社との非公式会合に提示。電力会社の要求でさらに表現を弱めた修正案がつくられたが、結局公表されなかった。
 委員は大学の研究者を中心に気象庁などの専門家ら計十数人。報告書は、三陸沖―房総沖の地震の発生確率などを求める「長期評価」の見直しの一環で作成していた。
 開示資料と取材によると、報告書案では「宮城県沖から福島県沖にかけて」という項目を新設。両県の太平洋沿岸の地中で、過去2500年間に貞観地震(869年、マグニチュード推定8・3)など計4回、巨大津波が来たことを示す堆積物が見つかったとの研究結果に基づき「(周期から)巨大津波を伴う地震がいつ発生してもおかしくはない」と記述した。
 だが、この文言が東海地震と結び付けて考えられる可能性があるなどとの指摘が出た。30年以内の発生確率が87%(現在は88%)だった東海地震と比べ、貞観地震などの再来にはそこまでの切迫性はないとして「発生する可能性があることに留意する必要がある」と弱められた。
 当初あった「巨大津波による堆積物が約450〜800年程度の間隔で堆積」「前回から既に500年経過」などの表現も削除された。
 東日本大震災について、地震調査委は昨年3月11日時点にさかのぼって発生確率を推定。「30年以内で10〜20%」だったとしている。

http://www.47news.jp/CN/201202/CN2012022801001129.html*5


 東日本大震災直前の昨年2月、政府の地震調査委員会(文部科学省)が東北地方の巨大津波について、報告書に「いつ起きてもおかしくはない」と警戒する記述を盛り込むことを検討しながら、委員の議論を受けて削除していたことが、28日までの文部科学省への情報公開請求などで分かった。「切迫度のより高い東海地震と同じ表現を使うのは不適切」との理由だった。

 報告書案は震災8日前、文科省東京電力など3社との非公式会合に提示。電力会社の要求でさらに表現を弱めた修正案がつくられたが、結局公表されなかった。


しかし、歴史にもしは無いのだけれど、この報告書が当初の「いつ起きてもおかしくはない」という表現で東日本大震災前に発表されていれば、いくばくかの人が救えたのではないかと思うと残念でならない。

*1:ひどい所だと陰謀論者扱いまでされているらしい。参考:井戸川克隆元双葉町町長の演説は、陰謀論や予言説とは異なる - 法華狼の日記

*2:一部元の記事が削除されているため、転載しているブログより孫引き。魚拓等あればお教え頂きたい。

*3:文科省の「巨大津波の可能性」報告書を、東電が変更させていた。 | 【エネこみ】 energy-shift community & commitmentより

*4:http://blogs.yahoo.co.jp/lunarainbow111111/3587584.htmlより

*5:今新聞社のサイトに残っているものとしてはこちらが一番詳細なものの模様。