結局2013年夏の電力は不足するのか否か。

個人的にはもう目標つき節電令が出てない時点で電力不足の話はある意味終わった話だと思っていたけれど、電力インフラの予備率に関する会話 - Togetterなどまだ議論を行っている人がいる。今回は供給予備率について議論しているようだが、両者共にそれまでの電力需給検証委員会の議論の経緯を追っかけていないため、空回りしているように見える。

その議論では電力予備力として必要な予備力について経産省(電力需給検証小委員会)の「通常7〜8%程度必要」という資料を元に必要な電力が用意されていないのではないかというのが論点のようだ。

2013年度夏季の電力需給見通しについて
供給予備率の考え方
○電力需要は、常に上下最大3%程度の間で、時々刻々と需要が変動。これに対応するために、最低でも3%の供給予備率を確保することが必要。
1.計画外の電源脱落、2.予期しない気温上昇による需要増に対応するためには、更に4〜5%以上の供給予備率が必要と考えられる。
○よって安定的な電力供給には7〜8%以上の予備率確保が望ましいとされている*1


これに対し2013年度夏季の需給見通しを見ると西日本だけで約6%、東西日本でも6.3%と確かに望ましい予備率7〜8%が確保できておらず、電力不足の危険があるように感じる。

しかしながら2012年の電力需給検証委員会では必要な供給予備率について以下の通りの考え方で行けると結論づけている。

2012年夏需給検証委員会報告書
【これまでの予備率の考え方】
通常、瞬間的な電力の需要変動に対応するためには、最低でも 3%の予備率を確保することが必要である。更に、1.計画外の電源脱落、2.気温上昇による需要増を考えた場合には、5%前後の予備率が必要となる。特に前者については、当該電力会社の管内で一番大きな発電所の出力も参考となる。
通常、需要期の 1 週間前までは、計画外の電源脱落と気温上昇による需要増に備えて、7〜8%以上の予備率を見込んで計画を立てている。
その上で、1週間前から、温度に関する情報をもとに、より正確な需要を想定し、予備率を見直している。計画外の電源脱落については、いつ起こるかわからないものの、需要当日に近づくにつれ、発生の確率は減少することから、確保すべき予備率も調整している。需要前日段階で他の電力会社において需要ひっ迫が厳しい場合、自社管内で電源トラブルがなく気温も想定内との前提で、ぎりぎり 3%の予備率を残して融通することも可能としている。もしその状態で自社発電所にトラブル等が発生し、それが3%を超える影響がある場合は、他の電力会社からの応援融通を受ける、もしくは、他の電力会社への応援融通を取り止める等により対応する。(図3−1)
【今回の電力会社申告分の融通量の検証】
融通は、必要な供給予備力を超えた部分について、他電力に提供するものである。従って、瞬間的な需要変動分 3%程度は確実に必要である。また、計画外の電源脱落などについても、今夏に向かってその可能性は否定し得ず、現段階では、必要な予備力と考えられる。
他方、気温の上昇に伴う需要増加分に対応するための予備力 3%程度については、今回の需要想定において、2010 年という猛暑を想定していることを踏まえると、既に、そのリスクは見込まれていると考えられる。従って、その分は差し引いた 5%程度から、融通可能量を算出することが適切と考えられる。(図3−2、3−3参照)。

つまり夏の気温上昇による需要増として3%程度の供給予備力が必要だが、猛暑という想定の中ですでに織り込み済みということになる。2013年の供給予備力についても同様に猛暑想定のため折込済みの3%を加えると、西日本で約9%、東西日本で約9.3%と一般的に必要とされる分の供給予備率が確保されていることがわかる*2 *3
 
 

以下余談。
この議論を最初見たとき、2013年の夏の電力需給検証委員会の資料に何の説明もなく上記の「供給予備率の考え方」という図が入っているので、2012年と2013年で国家戦略室から経産省に取りまとめ担当が変わったこともあり、供給予備率の考え方に変更があったのかと自分は邪推してしまった。
しかし、明記されている部分はないが議事録を見る限り、2012年と同じ電力需給の考え方で良いようだ。この気温上昇による需要増として3%分というはもう関係者にとっては暗黙の了解のようなものになっているのだろうか。

総合資源エネルギー調査会総合部会電力需給検証小委員会(第3回)議事録
○江澤電力需給・流通政策室長
ここから、予備率が5%を超える会社、この5%というのは、暑い夏を想定しておりますので、大体夏が、これは猛暑を想定する分で3%ぐらいの予備率がありますので、予備率は基本的に8%を確保すればいいので、3の部分はもともと暑いことで見込んでいる部分ですので、今この現在5%を超える会社というのは、3を足すと、例えば中部電力であれば9.2%で、これが暑い分で3%上乗せになっていると12%程度の予備力がございます。

結論:経産省の資料の作り方が分かりづらいから勘違いする人がでてしまう。

追記(2013/07/11)
この記事を書いた後もtwetter上で続いたので一部引用。

前に火力発電所が壊れていくというデマについて - アナログとデジタルの狭間ででも書いたけれど、現場を知らないのに、電力が不足しているという自説を補強するために結果的に現場の努力を否定し馬鹿にする言動をするのはやめてほしいものだ。

*1:以後も含めて引用の太文字は引用者による

*2:まあ当然だが、政府も馬鹿ではないということだろう。

*3:文章でわかりづらい場合は図3-2を見てもらえればわかりやすいと思う。

火力発電所が壊れていくというデマについて

電気屋が語る「電気は足りていません」の呟き - Togetter
こちらのまとめでは『火力をフル稼働させてメンテナンスができていない・老朽火力に無理させているから事故の確率が上がっていて、現在の電力供給は綱渡りだ。電力は「足りていない」』という話をしています。
前にブコメにも書いたけど、こういう自称分かっている人*1の根拠の明示の無い情緒的発言*2をありがたがるのは原発事故から2年も経つのですからそろそろやめるべきでないでしょうか。
では火力発電所に供給上の問題が起きているのか*3というと、火力発電所のトラブル発生件数が増えているという報道はいろいろありますが*4、電力不足につながる最も重要な計画外停止の平均値や最大値がどうだったのかという点については恐ろしいほどに報道もありませんし、たとえばこのまとめの人のように『現場の技術者に感謝を』なんてほざく人もそのことには言及しません。
では実際はどうだったのかというのを需給検証委員会報告書を読んでいくと

需給検証委員会報告書(2012年度冬)
a)計画外停止の状況
今夏(7月〜9月)の計画外停止の状況を表3、図1に示す。需給ひっ迫が想定された北海道電力関西電力四国電力及び九州電力管内の最大需要日の計画外停止実績は、いずれも、昨夏の計画外停止の実績を大きく下回った。(計画外停止が予備率に与える影響(全電力管内の平均)は2.9%と昨夏並であったが、需給ひっ迫が想定された関西電力管内をはじめ6電力管内で昨年実績を下回った。)(表4、図2参照)
火力発電の稼働率が上昇する中、昨夏に比べて計画外停止が少なかった理由について、各電力会社からは、巡回点検の件数の増加や豊富な知識・経験を持つOB社員の活用による設備の異常兆候の早期発見や休日・夜間を利用した早期復旧などが寄与したものと考えられるとの報告があった。

なお、本委員会において、運転開始後30年以上を経過した火力発電の老朽化に伴い計画外停止が増加する可能性が指摘されたが、少なくとも今夏の実績を見ると、老朽火力発電と比較的新しい火力発電の停止実績には、顕著な差異があるというデータは示されなかった。
ただし、特に北海道電力管内の30年超の石油火力については、他と比べて計画外停止等が多かった(表5参照)。平時にピーク電源として比較的短い時間使用していた火力発電を長時間使用したことにより、計画外停止の発生確率の上昇や発電効率の悪化等どのような影響をもたらすかは不明であり、不測の事態に備えた点検・補修に万全を尽くす必要があると考えられる。

というわけで、火力発電自体は昨年の夏と比べて800万kWも増えたのに対して、計画外停止による停止分の最大値が逆に24万kWも減り、計画外停止の平均値も71万kWも減る*5というすばらしい実績を作りました。
まさに今年度「電力が足りていた」というのはこういった実績を作り上げた現場の技術者のおかげであり、老朽火力だから、火力をフル稼働させているから、火力発電所が壊れそうだという現場の技術者の努力を貶すようなデマを信じてはいけません。

関係記事
簡単な火力発電所の話:デマというか誤解について - アナログとデジタルの狭間で
常用発電と非常用と自家発 - アナログとデジタルの狭間で

*1:この人は電気工事屋であって、発電所に詳しい人ってわけではないみたいですし2SC1815 on Twitter: "@Mahora115 ご紹介は有り難いのですが、私は元電気設備屋で、プラント屋でも発電関係の技術屋でもないので、ちょっと判断は出来ないです。取りあえず、東電は新火力発電所は建設する様ですね。原子炉4基お釈迦ですし、残りの福島県の2+4基が再稼働させてもらえるか不明なので代替でしょ"

*2:こういう発言っていつも誰得なんだか良く分からない比喩はいっぱいなのに、データはほとんどしめされませんよね。不思議ですねwww

*3:故障率が上がっているのか

*4:北海道電力、火力発電所のトラブル原因解説を掲載 - 家電 Watchや産経・読売の報道等なお北電の発表でも計画外停止による供給力の低下が増えているという記述はありません。

*5:需給検証委員会報告書の表より計算

放射能により孫にもたらされたもの

安全厨が相変わらずデマを流しているのには怒りを覚える。
東京新聞こちら特報部「健康被害3世代に」が大人気 - Togetter
まるで孫世代*1には影響がまったくないような物言いがなされているが、震災直後にはその点に言及している記事がもうすでにある。
記事自体がなくなっているので以下に転載する*2

チェルノブイリ原発事故:発生25年 放射線障害、孫の代まで

 ◇3キロから避難、苦しむ一族 因果関係調査なし

 旧ソ連ウクライナで86年に起きたチェルノブイリ原発事故は、発生から25年となる今も深い傷痕を残している。当時の周辺住民は今なお健康被害に苦しみ、事故との関連が認められず切り捨てられる例も多い。被ばくとの因果関係がきちんと解明されていないためだ。大気中に放出された放射性物質のレベルは大きく違うとはいえ、福島第1原発事故でも周辺住民への長期にわたる健康調査と配慮が求められる。【キエフで田中洋之】

 「(当時のソ連)政府は深刻な問題は起きないといっていた。それなのに……」

 ウクライナの首都キエフ北東部のデスニャンスキー地区にある自宅アパートで、ナジェージュダさん(56)は孫のイリヤ君(3)を抱きしめた。次女オリガさん(32)の三男イリヤ君は心臓弁膜症とダウン症に苦しむ。オリガさんは「こちらの話すことは理解しているのですが、言葉が出ないのです」と顔を曇らせた。

 25年前。ナジェージュダさんは、原発職員だった夫と娘2人と一緒に原発から約3キロ離れたプリピャチに住んでいた。原発労働者の町として建設され、当時の人口は約5万人。当時としては最先端の設備がそろい、自然も豊かで住みやすかったという。住民の平均年齢は26歳と若く、活気にあふれていた。

 事故は4月26日午前1時20分ごろ起きた。「深刻な事故とは知らされず屋内退避の指示もなかった。その日は土曜日で暖かく、子供たちは日中、外で遊んでいた」。住民に避難命令が出たのは翌27日。「(健康被害を抑える)ヨウ素剤も支給されなかった」とナジェージュダさんは振り返る。

 半年後に今のアパートに入ったが、しばらくして家族に健康被害が認められるようになった。別のアパートに暮らす長女レーシャさん(35)は6年前、甲状腺に異常が見つかり、手術で甲状腺を全摘出した。レーシャさんの3人の子供も病気がち。ナジェージュダさんとオリガさんも頭痛などの体調不良に悩まされてきた。

 オリガさんの長男(14)は妊娠6カ月の早産で、次男(10)もぜんそくを患う。イリヤ君は病気のため幼稚園から入園を拒否された。オリガさんは「小学校にはちゃんと通えるといいのですが」と話す。

 イリヤ君は病気と原発事故の関連が認定され、月に166フリブナ(約1700円)の手当を国から支給される。だが、ほかの5人の孫たちは事故と健康障害の関連が認定されず、プリピャチ出身者の子供向けの手当、月16フリブナ(約160円)しか受け取れない。被災者の医療支援を行っているウクライナの民間組織「チェルノブイリの医師たち」のニャーグ代表は「放射線と病気の因果関係の解明につながる統計や調査は、費用がかかることもあり行われていない」とウクライナ政府の対応を批判する。

 ナジェージュダさんが住む地区には約2万人のプリピャチ出身者がまとまって暮らす。元住民でつくる自助組織「ゼムリャキ(同郷人たち)」は互いのきずなをつなぎとめる文化活動を続ける一方、先天的な障害をもって生まれる子供たちを救済するプログラムをつくった。だが事故から25年が経過し、スポンサー探しは難しくなっているという。ゼムリャキ代表のクラシツカヤさん(55)は「次世代の子供たちに健康被害は広がっている。チェルノブイリの悲劇は決して終わっていないのです」と話した。
毎日新聞 2011年4月25日の記事より*3

このような現実を前になぜこんな風に根拠無しに東京新聞の記事*4をあざ笑っていられるのだろうか。

ほぼ同じ記事が中日新聞のWebサイト上にあったので紹介しておきます。

つなごう医療 中日メディカルサイト
原発事故でまき散らされた放射能汚染は、子どもらの健康をいかにむしばむのか。事故から26年後のチェルノブイリを視察した日本の作家やNPO法人が、現在進行形の被害や苦しみを相次いで報告している。福島の子どもらに、同じ悲劇を繰り返させてはならない。学ぶべきものとは。 (林啓太)
(略)
原発から南に約100キロ離れた首都キエフ郊外にウクライナ内分泌代謝研究所がある。面会した男性(34)は事故当時8歳で、20年以上もたってから甲状腺がんを発症した。

 テレシェンコ医師によると、事故時に18歳以下の人に施した甲状腺がんの手術は90年に64件を数えたが、「それが2010年に約700件に上った」と説明した。

 小児甲状腺がんは、飲食を通じて放射性ヨウ素を喉にある甲状腺に取り込み、細胞ががん化した病気だ。事故の4年後ぐらいから急増し、90年半ばをピークに減った。ところが当時の子どもが大人になった今、甲状腺がんを多発している。半減期が長いセシウムが蓄積されて被ばくしているとの報告書もある。

 小児甲状腺がんは国際的に原発事故との関連が認められている。中村さんは「後から発症する人も放射線との関連を疑うべきだ」と指摘する。

 日本ペンクラブの視察団はほかに、事故から約20年もたって生まれた子どもに、放射線の影響をうかがわせる障害があることを報告している。

 原発から西に約80キロのナロジチ市で、市民病院の近くに住むブラート君(8つ)。心臓や甲状腺に障害があり、生後4カ月をはじめに5回も手術を受けた。年の離れた2人の姉も甲状腺に障害がある。母親は事故時、10代後半だった。中村さんは「ほかにも筋肉まひや発達障害など、さまざまな病気に苦しむ子どもたちがいた」と話す。

足首や関節に 痛み訴える子

 同様の健康被害は、NPO法人「食品と暮らしの安全基金」(さいたま市)も現地で把握した。原発事故を経験した女性の孫の世代までを対象とした健康調査を今年2月に開始。5〜6月には、原発の半径約150キロの8つの村で、14家族の61人や小学生らに聞き取りした。

 放射線健康被害の研究は、がんや心臓病、白内障などの症例が知られているが、小若順一代表(62)は「幼児や児童らが足首や関節に痛みを抱えるケースも多いことが分かった」と明かす。

 原発から120キロほど西にあるモジャリ村。約20人の小学生に「脚が痛くなる人は」と聞くと半数近くが手を挙げた。膝、すねやくるぶしに痛みを感じると言い、痛む箇所を指さしたりさすったりしてみせたという。

野生キノコやブルーベリー 食料自給が影響? 

 原発から南東に140キロのエルコフツィー村では、エレーナ・モロシュタンさん(27)が「心臓が痛い」と話し、長女エフゲーニャちゃん(3つ)もくるぶしの痛みを訴えた。

 エレーナさんは放射能に汚染された場所に半年間、住んでいたことがあるが、エフゲーニャちゃんが生まれた同村は「非汚染地帯」とされる。小若さんは「子どもが関節に痛みを覚える以上、放射線の影響も想定せざるを得ない」と続ける。

2012/10/20追記
togetterで批判している斗ヶ沢記者にどう思っているのかを聞いてみた。

なおもう2週間たっているが返事はない*5。私の目には両者に本質的な違いがないように見えるが、斗ヶ沢記者は違うようだ。

*1:正確に言うと当時子供の世代の子

*2:当時のハテブはてなブックマーク - チェルノブイリ原発事故:発生25年 放射線障害、孫の代まで - 毎日jp(毎日新聞)

*3:強調は引用者による、togetterで批判している斗ヶ沢記者と同じ毎日新聞の記事だ。

*4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2012100102000123.html

*5:はてなtwitter記法のアイコン位置がひどすぎる気がする

半年で原発一基分の再生可能エネルギーが導入できそうな件

7月にFITが導入されて、2か月分の認定状況が報道されている。

自然エネルギー:再生可能エネルギーの導入ペースが加速、2か月で年度目標の半分を突破 - スマートジャパン
経済産業省が発表した7月と8月の集計結果によると、この2か月間に固定価格買取制度の対象として認定された発電設備の規模は130万kWに達し、2013年末の目標値250万kWの半分を超えた。
(略)
今後も同様のペースで再生可能エネルギーによる発電設備が増えていくと、2013年3月末には600万kW程度の規模まで拡大する。

再生エネ導入実績、目標の5割超す 想定より早く :日本経済新聞
発電設備の容量でみた8月末の実績によると、メガソーラーなど住宅以外で使う太陽光が73万キロワットと最も多かった。住宅向けの太陽光の31万キロワット、風力の26万キロワットが続いた。設置に時間がかかるものもあり、すべてですぐに発電できるわけではないという。
 住宅で使う太陽光を対象にした旧制度に基づく分も含め、4〜8月に運転を始めた再生エネの設備容量は68万キロワットになったとの実績も公表した。住宅に設けた太陽光が60万キロワットと大半を占めた。

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120927/mca1209270502007-n1.htm
一方、今年4〜8月末までに運転を開始した再生エネ設備は計68.3万キロワットで、今年度の導入目標の3割弱にとどまるが、「今年度後半にかけて複数のメガソーラーが運転を開始する予定なので、非住宅太陽光の伸びが大きくなる」(経産省)としている。

こういった数字は以前から原発何基分と言い換えることが多く、今回も原発一基分という表現を使っているところがある。
http://www.asahi.com/politics/update/0926/TKY201209260284.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2012092602000222.html
それに対してkWとkWhの違いを分かっていないといちゃもんをつける人たちがtwitterなどに多くいるようだ。例えば

では実際今回認定されたという大型原発一基分の再生可能エネルギーという数字は電力量で換算して原発と比較するとどれくらいになるのだろうか。
原発一基100万kW、稼働率60%だとすると、年間の発電量約5.3TWh*1になる。
それに対して、http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/index.htmlの8月末のデータを使って試算する*2と2ヶ月間で認定された再生可能エネルギーの年間発電量は約1.6TWhとなり、これだけでも原発の3分の一基分ないしは中型火力一基分相当の電力量となる。
これが今のペースでそのまま延びて行けば2012年末までに発電量換算でも原発一基分の再生可能エネルギーが導入されることになる*3
半年で一基、1年で二基分を再生可能エネルギー原発を代替できるのならば2030年までには現在の原発30%分を再生可能エネルギーが代替するのは、量的な問題がないことが分かるだろう。もはや再生可能エネルギーの普及を阻むものがあるとしたら、金銭的理由だけになるのではないだろうか。
金銭部分についての解析は次回の記事としたい。


ちなみに言うとドイツの太陽光発電は日中原発10基分以上を発電 - アナログとデジタルの狭間でで紹介しているドイツの記事でも原発何基分という表現があるので、大型原発一基分という表現は世界的にもよくある表現のようだ。

*1:5億3000万kWhね

*2:稼働率を太陽光12%、風力22%、水力70%、バイオマス80%として計算、ちゃんと調べてないので不正確かも。

*3:1.6TWh*3=4.8TWh≒5.3TWhでほぼ原発一基分相当となる

常用発電と非常用と自家発

大飯原発が必要だったか試算してみた - アナログとデジタルの狭間でへの id:xevra のハテブコメント「良エントリ。そもそも揚水発電をちゃんと回すだけで電力は足りている事は事前から分かりきっていた事。また民間企業内の発電設備から電気を買う対策も加えたら電力は余りまくっている。いつまでも利権屋に騙されるな」から始まった電力足りてないと言っているのは利権屋だけ - Togetterで自家発についてとんちんかんな議論が展開されていたので突っ込んでみる。

RT @GeKiJouNOutA 先程も言いましたが、企業の自家発は同期が取れる等全て電力網に送電できるようになっているのですか?また何時間も運転できる物ばかりですか?
RT @PCengineerX では、電力網に対する技術的な問題ではないという論拠は?というか、電力網、送電系統の制御も含めて資料読んでますか?自家発電に対する法令と区分けでもこうなってますが?非常用発電機の設置基準
RT @PCengineerX ガスタービン発電機で自家発として導入されている物のかなりの部分で寿命時間が1000時間程度になります。それ以後は整備になりますが、それでも利権屋の暴論ですか?どうやってピークごとに使っていくんですか?始動ごとに余分に一時間は稼働時間分の寿命も削られます。*1

まとめるとこの二人が言っていることは

  1. 自家発6000万kWは系統と連系*2できない、非常用発電機だ。
  2. ガスタービン発電機は1000時間しか寿命が無く、整備が大変。

ということになる。しかしこれは最近のエネルギー関係の資料を追っていれば分かる事だがそんな事実は無い。
一つ目に付いてはエネルギー庁の出しているhttp://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/denryoku/result-2.htmの「5-(1)自家用発電所認可出力表」という統計によれば2012年3月末時点で5582万kWの設備容量があり、需給検証委員会報告書(案)によるとそれら自家発は常用であり系統に接続されていること、及びそれとは別に非常用自家発が2300万kWあることが書かれている。*3

二つ目に付いては当然1ヶ月程度しか持たない常用自家発なんてものは無いわけで、点検の基準は

電力安全規制の見直しの経緯
耐圧工作物(定期自主検査対象)であって、以下のいずれかに該当するものを特定耐圧工作物(定期検査対象)とする。
7.ガスタービンで累積運転時間10万時間を超えたもの
火力設備における電気事業法施行規則第94条の2第2項第1号に規定する定期自主検査の時期変更承認に係る審査基準及び申請方法等について
(3)小型ガスタービン
次のイからホまでのいずれかに該当するものにあっては、それぞれに掲げる時期又は前回の検査後6年を経過する時期のいずれか早い時期を限度として、検査の時期の延長を承認することができる。ただし、一回の承認による延長期間の限度は、最大3年とする。
イ 年間運転時間を6,000時間超とし、かつ、分解点検までの運転時間を30,000時間以上として設計、製作されているもので

といったように発電用のガスタービンの分解点検頻度は1万時間や10万時間運転周期となる。
常用の自家発が日本の発電量の2〜3割近くを占めるというのは、一般的な認識ではないかもしれないが、自家発は毎年増えており*4これからはさらに重要性が増していく存在なので正しい認識が普及してほしいものだ*5


*1:ところでだれかTwitterやTogetterの簡単な引用方法知りませんか?

*2:どこかで連携と書いている人がいたが用語としては連系が正しい。

*3:需給検証委員会の資料は基礎資料だと思っていたのだけれど、それさえ知らずに議論する人が案外いるようだ。

*4:去年一年で東北は200万kWも自家発が増えている!

*5:業界の隅にいる端くれとしては

大飯原発が必要だったか試算してみた

はてなブックマーク - 中日新聞:関電、大飯再稼働なくても電力供給に余力 :社会(CHUNICHI Web)*1の記事に対して、その後暑かった17〜19日を考慮していないと批判が出ている。
批判記事
中日新聞記事「関電、大飯再稼働なくても電力供給に余力」に対する賛否 - Togetter
関西の電力は足りていない、これが事実です。 @masason による印象操作。 #原発 #脱原発 - Togetter
中日新聞、大飯再稼働なくても余力 ?で学ぶ。詭弁を暴く3つのポイント:データイズム:オルタナティブ・ブログ

これらは事前に関電の言っていた発電能力(2542万kW*2を元に、需要が上回っていたことから原発再稼動が必要だったといっているようだ。
実際はどうだったかを試算してみようと思う。
右上図は関電の最大電力需要時の試算*3だがこの方法を見習って試算を行う。
まず元となるデータは電力需給のお知らせ|電気の安全・安定供給|送電・配電|関西電力株式会社の「過去の使用電力実績データのダウンロード」から、もっとも電力需要が高かった7/18のデータを元にする。供給能力の元になるのは下記のとおり。

火力 水力 他社受電
1470 274 607 2351

これを元に供給力-需給で計算すると*4、揚水のポンプアップ可能量は5000万kWhとなり、3割ロスをいれると揚水池いっぱいの約3500万kWまで貯められる。
これを電力需要の多目の7時間と少なめ4時間として割り振りを行うと最大2740万kWまで供給可能という試算結果を得られた。
結論は私が作成した右下図*5を見て貰えれば分かるとおり大飯原発の再稼動は無かったとしても7月一番の暑かった日でも電力は足りていた。*6

関連してそうな記事
2012.7.21作成【関西電力の原発抜き発電容量はいくらなのか】マキノさんのツイートまとめ - Togetter
関西電力の原発抜き最大供給力は2542万kWか? - Togetter

*1:中日新聞:関電、大飯再稼働なくても電力供給に余力 :社会(CHUNICHI Web)記事自体は見当たらなくなってしまっている。

*2:これ自体は第6回 需給検証委員会のデータを持ってきているのだろう。

*3:今夏の需給見通しと節電のお願いについてより引用

*4:供給力-需給の9割をポンプアップでき、最大で1時間486万kWまで揚げられるとして計算

*5:関電が作成したのと同じ順番で各供給力を並べ一番上に原発の分を並べた。

*6:若干説明不足名ところがあるので後で追記する予定。

ドイツの太陽光発電は日中原発10基分以上を発電

日本においてもFIT議論が始まってからは失敗扱いされることの多いドイツの太陽光発電だが*1、最近良いニュースが報道された。http://www.jiji.com/jc/rt?k=2012052800241rによると*2

ドイツの再生可能エネルギー関連シンクタンク、国際経済フォーラム再生可能エネルギー(IWR、本部ミュンスター)のディレクター、ノルベルト・アルノホ所長は26日、同国の太陽光発電量が25、26日の昼ごろの時間帯に過去最高の22ギガワット時(GWH)を記録したことを明らかにした。

アルノホ氏は「過去にこれほどの太陽光発電をした国はない」とし、「この数週間、何回か20GWHに近づくことはあったが、25、26日に初めてこの水準を上回った」と指摘した。同氏は、先進工業国の一つが平日(25日)に電力需要の3分の1、工場やオフィスが休みの土曜(26日)には半分近くを太陽光発電で賄えることが示されたと強調した。1年前の太陽光発電量は14GWHだった。

政府の再生可能エネルギー促進政策もあって、ドイツは世界でもトップの同エネルギー利用国となり、年間の総電力需要の約20%は同エネルギーから得ている。また、同国で設置された太陽光発電設備の能力は諸外国のほぼ全てを合わせたほどに達しており、太陽光発電は年間需要量の約4%を占めている。

ドイツの太陽光発電装置の能力は11年に7.5GW増え、さらに12年第1四半期(1〜3月)に1.8GW拡大して、合計26GWとなった。


記事によると日中のピーク時に原発22基分の発電量相当の22GW(2200万kW)の発電をしている*3
どういう感じで発電しているかをPV electricity produced in Germany | SMA Solarというドイツの太陽光発電の発電状況を見せてくれるサイトで言われている当日の5月25日を見てみると、ただ単に20GW以上を日中に発電しているだけでなく、12時半から14時半の間の2時間に20GW原発20基分以上発電し、さらに朝の9時から夜の6時までの9時間もの間でも10GW原発10基分もの発電を行っていることが分かる*4
良く太陽光発電は非力だ、だから導入促進する必要はないと言う人々が多いが、こういったドイツの状況を見ても太陽光発電を導入することに意味がないというべきなのだろうか。特にこれから夏の電力不足に苦しみそうな日本において。

*1:最近だと/ WSJ日本版 - jp.WSJ.com - Wsj.com太陽光発電は全体の3%!? 「脱原発」維持に向けて現実的な方策を模索し始めたドイツの厳しいエネルギー事情とは | 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」 | 現代ビジネス [講談社]とか

*2:ほかにもhttp://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2012053002000226.htmlなどでも報道されている。

*3:Germany sets new solar power record, institute says - Reutersこちらの原文では原発20基分となっているが日本だと100万kWで原発1基分と表示されることが多いのでそちらの表現にした。

*4:図は9時時点での発電状況、元になるデータが異なるのかピーク値等は上記記事とは異なる。